2019年6月24日に学術誌「Journal of Animal Ecology」の研究発表で「高齢のオスはメスを探し出して交尾することに若いオスよりずっと多くの労力をつぎ込んでいる」ことが明らかになった。
今回の研究は、マスト期のオスが交尾に投入するエネルギーを突き止めるために、ケニア北部の2つの国立保護区に広がる約900頭の個体群を対象に様々な年齢の大人のオス30頭に追跡用のGPS首輪を装着。
研究チームは2000年から2018年にかけてゾウの移動を断続的に記録し、メス探しに費やす労力を表すものとして、毎日の平均スピードを明らかにした。
生殖行動は「マスト」と呼ばれる。マストの間、中年から高齢のオスのゾウは食事や休息にほとんど時間を割かず、可能な限り多くのメスと交尾しようとサバンナを徘徊する。メスは母系集団で生活し、オスはマスト期に入るまで別のグループで暮らすことが多い。
調査の結果、最も高齢のオスたちはマスト期以外は歩く速度が最も遅かったが、マスト期が始まるとこの年配者たちはフル回転になり、若いライバルたちよりも早く歩いていた。
50代でありながら、この期間には歩き回る範囲も3.5倍に広がっていた。
今回の論文の共著者で、英オックスフォード大学博士課程修了後の研究者、ルーシー・テイラー氏は以下のように述べた。
- 「マスト期のオスは、テストステロン(いわゆる男性ホルモン)生産工場のようです」
- 「基本的に、彼らは全てのエネルギーを蓄えておいて、マスト期に入るとそれを消費するということです」
- 「年を重ねるとともに、オスの体はずっと成長を続けます。ゆえに優位な存在となり、メスはその点を好むのです」
マスト期のオスは、ニオイの強い尿を絶えずしたたらせ、頬の特殊な腺がふくらみ、フェロモンを含んだ濃い液体をそこから分泌させる。これがメスを魅了する。
ゾウ保護団体の代表シンシア・モス氏は「マスト期のオスは、そうでないオスよりもはるかに有利です」と話す。
ゾウのオスは15歳ごろから交尾できるようになるが、マスト期のリズムが規則的になるのは35歳ごろからだそうだ。そして50歳まで、メスに向かって駆け出さんばかりになっている。
人間を含めてたいていの哺乳類は年齢と共に繁殖力が弱まっていくことが多い中、こうした過程をたどる動物(ゾウ)は珍しいという。
年を取ったオスが、なぜこれほど交尾に熱心になるのだろうか。
まず、これらのゾウは70歳代まで生きることから、メスは交尾の相手を探す際、健康状態を示す尺度として年齢を使うのだとモス氏は言う。