輸出が禁止されている「和牛精液」が日本国外へ不正に持ち出されていたことが判明した。
「違法行為とは、知らなかった」
持ち出したのは「自称大阪府在住の男性」で、今年(2018年)冷凍した和牛精液の入ったストロー数百本を、液体窒素を充填した保存容器「ドライシッパー」に入れて国外に運んだ。
農水省動物検疫所の聞き取りでは男性は「知人に頼まれた。違法なものとは知らなかった」と話したという。
日本から動物やその一部を他国へ持ち出す場合、「家畜伝染病予防法」で家畜防疫官の検査を受けるよう定めている。
ただし、持ち出す人が申請しなければ同所は把握できない。
危機管理課は「今の仕組みでは、悪意があれば容易に持ち出せる」と実態を明かした。
検査の難しさ
不正に輸出された和牛精液が中国入国時に発見され、中国への流出は水際で防ぐことができたが、日本の検査体制の甘さが浮き彫りとなった。
畜産関係団体は「和牛精液が流出し、他国で生産が広がれば和牛の輸出先を失う。畜産農家は大打撃だ」と危惧する(金子祥也)。
航空会社の手荷物検査でも発見するは難しく、和牛精液が入っていた「ドライシッパー」を開けるには知識が必要な上、取り出した内容物は温度が急上昇して劣化することもある。
持ち出し禁止でない医療用の試薬などを運ぶことも多く、国交省航空局も「どの航空会社も、通常は中身まで確認しない」「X線には通すが、中身は判別できない」という(運行安全課)。
この辺りを改善しなければ、過去にあった和牛精液流出が再び起こるだろう。
過去にも同じことがあった
畜産業界からは心配する声が上がる。
法規制の前にオーストラリアに遺伝資源が流出したことにより、オーストラリア産「WAGYU」が日本の和牛と競合し、輸出に影響が出ているためだ。
※原発事故のときに日本が輸出することができなかった間に、オーストラリア産とアメリカ産の和牛が市場を占めた。現在世界のWAGYUはオーストラリア産が大半だ。
日本畜産物輸出促進協議会は「国も牛肉輸出には力を入れている。遺伝資源の流出は大きな問題だと受け止めてほしい」と訴える。
違反者への対応にも疑問の声が上がった。
同法は違反すると、懲役刑が付くこともあるが、罪に問うには動物検疫所の刑事告発が必要だ。
今回、同所は厳重注意だけでこの男性を解放したが、同所は「初犯で悪質ではないと判断した」と説明した(危機管理課)。
手続きに時間がかかるため、刑事告発することは「年に数回もない」という。
氷山の一角にすぎない
中国で肥育農家の技術指導を手掛けるなど、現地の事情に詳しい松本大策獣医師は「和牛精液を欲しがる業者はいくらでもいる」と警鐘を鳴らす。
既に精液が持ち込まれたとの情報も耳にしたことがあり「今回のケースは氷山の一角ではないか」と指摘する。
鮫島のコメント
早く手を打たないと、いちごの苗海外(韓国)流出と同様に、このままでは日本の和牛ブランドも停滞しそうです。